銀狼の咆哮∶『高切れ』という名の強制終了

1.半年間の渇きと、銀色の新参者

​転職。それは人生の転機であり、同時に「自由時間の完全なる消失」を意味する。

新しい環境、慣れない仕事、そして「がいな」嫁の顔色を伺う日々……。気がつけば、私は半年もの間、瀬戸内の潮風から遠ざかっていた。

​そんな渇ききった私の前に現れたのが、26シルバーウルフSV TW PE specialである。

チニングに特化したその銀色のボディは、漆黒の闇の中でも不敵な輝きを放っていた。私はこれを、信頼の相棒 Beams inte 77UL に装着した。 inte 64ULよりも一回り力強いその肢体に、最新鋭のリール。これ以上の組み合わせがあるだろうか。

「チヌが釣れ出したらしい」という風の噂を信じ、私は新戦力の「鱗付け」を果たすべく、実績のあるあのポイントへと車を走らせた。

​2.沈黙の海、空虚なキャスト

​ポイントに到着し、私は意気揚々と銀狼を解き放った。

半年ぶりのキャスト。指先から伝わるラインの感触。最新リールの滑らかな回転。

「……素晴らしい」

私は独りごちた。しかし、海からの返事はない。

一時間、二時間……。実績のあるポイントのはずが、海はまるで死んだように静まり返っている。アタリすらない。私の「銀狼」は咆哮をあげるどころか、沈黙を守り続けている。

周囲の釣り人が一人、また一人と去っていく。夜風はいつの間にか冷たさを増し、私の半年分の期待は、刻一刻と「ボウズ」という名の塩辛い現実に塗り替えられていった。

​3.暗転、そして「白旗」の飛翔

​「最後の一投にしよう」

そう決めて、私は全霊を込めて振り抜いた。半年間のストレス、転職の疲れ、そして釣れない焦燥。それらすべてを「銀狼」の回転に乗せて放り出そうとした、その瞬間だった。

――パチンッ!

​闇夜に響いたのは、獲物の跳ねる音ではなく、PEラインが悲鳴をあげた音だった。

無情にも発生したバックラッシュ。急激に止められたスプール。その衝撃で、高価なルアーだけが、星空を横切る流れ星のように、漆黒の海の彼方へと消えていった。

​残されたのは、指先に伝わる力抜けた感触と、リールの中で無残に絡まり合った、真っ白なラインの塊だけ。それは、私の敗北を宣言する「白旗」のように、常夜灯の下で空しく光っていた。

​4.おわりに

​納竿。

鱗付けどころか、ラインまで失い、私はトボトボと帰路についた。

半年ぶりの海は、私に微笑むどころか、手痛い「洗礼」を浴びせてくれた。

​「……で、お魚はどこ?」

帰宅した私を待ち受けていたのは、冷え切った食卓と、嫁の容赦ない問いかけだった。

「いや、今日は……銀狼を、じっくりと寝かせてきたんだ」

そんな言い訳が通用するはずもなく、私は独り、失ったルアーの値段を計算しながら、暗い台所で水道水を啜ったのである。

…さて、手ぶらで帰った私に残された道は、台所での隠密工作しかなかったのである。

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